「鼻水がのどへ流れる」「痰が張りついて何度も咳払いをする」「朝になるとのどに粘りを感じる」。このような症状は後鼻漏(こうびろう)と呼ばれます。後鼻漏は病名ではなく症状の名前で、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、かぜ、慢性上咽頭炎など、原因は一つではありません。咳やのどの違和感が中心の場合は、胃酸逆流や呼吸器の病気など鼻以外の原因も検討します。

この記事の結論
鼻水の一部がのどへ流れること自体は、健康な方にもある生理的な現象です。しかし、量が増える、粘りが強くなる、咳・痰・咳払い・口臭などにつながる場合は、治療が必要な鼻の病気が隠れていることがあります。
治療は原因ごとに異なるため、鼻水の性状、左右差、季節性、嗅覚低下などを確認し、必要に応じて鼻咽腔内視鏡や画像検査、アレルギー検査で原因を調べます。Bスポット療法は慢性上咽頭炎が原因と考えられる場合に行いますが、すべての後鼻漏に行う治療ではありません。
後鼻漏とは?
鼻や副鼻腔の粘膜では、吸い込んだほこりや異物を取り除き、粘膜を乾燥から守るために分泌物が作られています。分泌物は鼻の粘膜にある線毛の働きで少しずつ後方へ運ばれ、通常は意識しないまま飲み込まれます。したがって、「鼻水がのどへ流れる」という現象があるだけで異常とは限りません。
一方、鼻水の量が増えた、粘りが強くなった、上咽頭やのどにべったり付着する、においや味が気になるといった状態になると、流れていることを強く自覚します。これが生活上の不快感、痰、咳払い、咳、睡眠の妨げなどにつながる場合に、症状としての後鼻漏を考えます。
後鼻漏は病名ではありません
「後鼻漏があります」という表現は、「頭痛があります」と同じように症状を示しているだけで、原因となる病気までは決まりません。透明でさらさらした鼻水と、粘りのある色のついた鼻水では考えやすい原因が異なります。くしゃみ、鼻づまり、嗅覚低下、顔の重さ、発熱など、ほかの症状との組み合わせが診断の手がかりです。
流れている感覚と診察所見が一致しないこともあります
後鼻漏を強く感じていても、診察時には多量の分泌物が見えないことがあります。症状が出る時間帯と受診時の状態が違う場合があるほか、少量でも粘りが強い、粘膜が乾燥して感覚が過敏になっている、胃酸逆流など別の要因でのどに異物感がある、といった可能性を考えます。「見えないから症状がない」「感じるから必ず鼻水が多い」とどちらか一方だけで判断せず、経過と診察所見を合わせて評価します。
後鼻漏に伴いやすい症状
後鼻漏の感じ方には個人差があります。鼻水が実際に流れる感覚だけでなく、のどの張りつきや咳として自覚されることもあります。
- 鼻水が鼻の奥からのどへ落ちる感じがある
- 鼻とのどの境目に粘液が張りついている
- 痰がからみ、何度ものどを鳴らしたり咳払いをしたりする
- 横になると流れる感じや咳が強くなる
- 朝起きたときに、のどの粘りや不快感が強い
- 粘りのある鼻水、鼻づまり、嗅覚低下を伴う
- 口臭や鼻水のにおいが気になる
後鼻漏がのどを刺激して咳が出ることはありますが、長引く咳の原因は後鼻漏だけではありません。喘息・咳喘息、感染後咳嗽、胃食道逆流、薬剤、喫煙関連疾患なども候補になります。特に夜間や明け方の咳、運動時の咳、喘鳴、息苦しさがある場合は、呼吸器の評価も重要です。
子どもでは咳や口呼吸で気づくことがあります
子どもは「鼻水がのどへ流れる」とうまく表現できず、湿った咳、咳払い、鼻すすり、口呼吸、食事中のむせなどで気づくことがあります。かぜに伴う一時的な鼻水が多い一方、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、アデノイド肥大などが背景にある場合もあります。片側からにおいの強い鼻水が続く幼児では鼻の異物も考えるため、家庭で取り出そうとせず受診してください。
後鼻漏を起こす主な原因
かぜ・急性鼻炎
かぜの初期には透明な鼻水が増え、その後、粘りが強くなることがあります。鼻水が多い時期は後鼻漏も起こりやすく、のどの痛み、咳、だるさなどを伴います。多くは一時的ですが、いったん改善した後に再び悪化する、高熱や強い顔面痛がある、症状が長引く場合は、副鼻腔炎などの合併がないか確認します。
アレルギー性鼻炎
スギ花粉やダニ、ハウスダストなどに対するアレルギー反応で、透明で水のような鼻水、くしゃみ、鼻づまり、鼻や目のかゆみが起こります。分泌物が増えるだけでなく、鼻づまりによる口呼吸でのどが乾燥し、張りつき感が強くなることもあります。季節、掃除、寝具、動物との接触など、症状が出る状況を確認することが重要です。
急性・慢性副鼻腔炎
鼻の周囲にある副鼻腔で炎症が起こると、粘りのある分泌物が鼻腔へ出て、後鼻漏になることがあります。粘性・粘膿性の鼻水、鼻づまり、嗅覚低下、頭や頬の重さ、口臭などが手がかりです。慢性副鼻腔炎では強い痛みや発熱が目立たず、後鼻漏や嗅覚低下だけが長く続く場合もあります。

黄色い膿のような鼻水が、鼻の奥からのどへ向かって流れています。
副鼻腔炎には一般的な慢性副鼻腔炎のほか、好酸球性副鼻腔炎、歯の炎症に由来する歯性上顎洞炎、真菌が関係する病変などがあり、治療は一様ではありません。片側だけに症状や画像の陰影がある場合は、通常の副鼻腔炎以外も含めて慎重に確認します。
慢性上咽頭炎
鼻の突き当たりとのどの一番上にある上咽頭の炎症が、後鼻漏や鼻の奥の張りつき感に関係することがあります。ただし、後鼻漏だけで慢性上咽頭炎と判断することはできません。鼻・副鼻腔、中・下咽頭、喉頭などに別の病気がないかを確認し、内視鏡で上咽頭の発赤、腫れ、分泌物などを観察して総合的に診断します。
慢性上咽頭炎と診断され、適応がある場合にはBスポット療法(上咽頭擦過療法)を検討することがあります。一方、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が原因であれば、その治療が優先されます。後鼻漏がある方全員にBスポット療法を行うわけではありません。
非アレルギー性鼻炎・乾燥・刺激
温度差、香料、煙、刺激物などで鼻水や鼻づまりが起こる非アレルギー性鼻炎でも、後鼻漏感がみられます。また、空気の乾燥、喫煙、慢性的な口呼吸は鼻・のどの粘液を乾燥させ、少量の分泌物でも強い張りつきとして感じさせることがあります。
鼻以外の原因で似た症状が出ることもあります
胸やけや呑酸がなくても、逆流が咽喉頭の違和感、声がれ、咳払いに関係する場合があります。また、喘息・咳喘息や喉頭アレルギーでは咳が中心となり、「鼻水が落ちて咳が出る」と感じることがあります。鼻の治療だけで改善しない場合は、症状に応じて呼吸器内科や消化器内科などと連携して原因を見直します。
症状から考える原因の目安
次の表は診断を確定するものではありませんが、受診時に症状を整理する参考になります。複数の病気が同時にあることもあり、鼻水の色や一つの症状だけで自己診断はできません。
| 考えられる原因 | 鼻水・後鼻漏の傾向 | 一緒にみられやすい症状 |
|---|---|---|
| かぜ・急性鼻炎 | 初期は透明、その後粘りが出ることがある | のどの痛み、咳、発熱、だるさ。比較的急に始まる |
| アレルギー性鼻炎 | 透明でさらさら。量が多いことがある | 連続するくしゃみ、鼻・目のかゆみ、鼻づまり、季節性 |
| 副鼻腔炎 | 粘りのある鼻水や粘膿性の後鼻漏 | 嗅覚低下、頭重感、頬の違和感、口臭、鼻づまり |
| 慢性上咽頭炎 | 上咽頭への付着や、鼻の奥の張りつき感 | 鼻とのどの境目の違和感、咳払い。内視鏡所見の確認が必要 |
| 咽喉頭逆流症 | 明らかな鼻水が目立たないこともある | 食後・就寝時の違和感、朝の声がれ、胸やけ、咳払い |
| 喘息・咳喘息など | 鼻症状を伴う場合も、伴わない場合もある | 夜間・明け方や運動時の咳、喘鳴、息苦しさ |
早めに受診したい危険なサイン
後鼻漏の多くは鼻炎や副鼻腔炎などによるものですが、次の症状がある場合は、様子を見続けず耳鼻咽喉科へご相談ください。
- 片側だけの鼻づまり、後鼻漏、悪臭のある鼻水が数週間続く
- 血の混じった鼻水や、繰り返す鼻血がある
- 頬のしびれ・腫れ、歯の違和感、片側だけ涙が出るなどの症状がある
- 嗅覚低下が続く、または急に悪化した
- 強い頭痛、高熱、まぶたの腫れ、見え方の異常がある
- 飲み込みにくさ、声の変化、首のしこり、体重減少がある
- 息苦しさ、喘鳴、胸痛、血痰がある
特に、まぶたの強い腫れや見え方の異常、意識の変化、呼吸困難などがある場合は、通常の外来予約を待たず救急受診を含めて判断してください。片側性や血性の症状があっても直ちに腫瘍という意味ではありませんが、内視鏡や画像検査が必要な病気を見落とさないために確認が大切です。
耳鼻科で行う診察・検査
後鼻漏の診察では、鼻水を止めることだけを目的にせず、どこで分泌物が増え、なぜ症状が続いているかを調べます。すべての検査を全員に行うのではなく、症状と診察所見に応じて選択します。
| 診察・検査 | 確認する内容 |
|---|---|
| 問診 | 始まった時期、左右差、鼻水の性状、季節・時間帯、かぜとの前後関係、咳や胸やけ、使用中の薬 |
| 鼻・口・のどの診察 | 鼻粘膜の腫れや色、鼻水、鼻茸、咽頭への分泌物、口腔・咽頭の炎症 |
| 鼻咽腔内視鏡 | 鼻腔、後鼻孔、副鼻腔から流れる分泌物、上咽頭、必要に応じて喉頭を観察 |
| アレルギー検査 | 問診や診察からアレルギーが疑われる場合に、原因アレルゲンを調べる |
| 画像検査 | 副鼻腔炎、片側性病変、治りにくい症状などで必要性を判断して行う |
| 他科での評価 | 長引く咳、喘鳴、逆流症状などに応じて呼吸器・消化器領域を確認 |
鼻咽腔内視鏡で分かること
細い内視鏡を鼻から入れると、口を開けただけでは見えない鼻の後方や上咽頭を観察できます。どこから分泌物が流れているか、鼻茸や腫れがないか、上咽頭に炎症所見があるかなどを確認します。後鼻漏の自覚があっても診察時に分泌物が見えない場合は、症状が出やすい時間帯や環境、撮影できた鼻水の状態なども参考にします。
内視鏡だけですべての原因が分かるわけではありません。副鼻腔の奥は画像検査が必要になることがあり、咳やのどの症状は胸部・消化管など鼻以外の評価が必要な場合もあります。
アレルギー検査は症状と合わせて解釈します
血液検査などでアレルゲンに対する反応が確認されても、それだけで現在の後鼻漏の原因と断定はできません。季節性、曝露状況、鼻の所見と一致するかを確認して治療方針を決めます。検査の種類や対象年齢については診察時にご相談ください。
後鼻漏の治療は原因によって異なります
後鼻漏だけに共通する一つの治療があるわけではありません。原因となる鼻炎や副鼻腔炎などを治療し、分泌物の量や粘り、鼻づまりを改善することが基本です。複数の原因が重なっている場合は、治療への反応を見ながら優先順位を調整します。
アレルギー性鼻炎の場合
原因アレルゲンを避ける環境調整、抗アレルギー薬、ステロイド点鼻薬などを症状に合わせて組み合わせます。鼻づまりが強い場合は、点鼻薬を正しい方向へ噴霧できているかも確認します。市販の血管収縮性点鼻薬を長期間連用すると、かえって鼻づまりが悪化することがあるため注意が必要です。
副鼻腔炎の場合
急性か慢性か、鼻茸や好酸球性炎症があるかなどで治療が異なります。内服薬、点鼻薬、鼻処置などを行い、治りにくい場合は画像検査や手術適応を検討することがあります。鼻水に色があるという理由だけで抗菌薬を使用するのではなく、経過と診察所見から必要性を判断します。
慢性上咽頭炎の場合
鼻や副鼻腔など、ほかの原因がないかを確認し、慢性上咽頭炎と診断された場合に治療を相談します。Bスポット療法は選択肢の一つですが、処置時の痛みや一時的な出血があり、改善の程度にも個人差があります。「後鼻漏があるからすぐBスポット療法」ではなく、診断と説明を受けてから適応を判断します。
逆流や呼吸器疾患が疑われる場合
鼻の治療を続けても咳や違和感が改善しない場合、初めの診断にこだわらず見直すことが重要です。食後・就寝時の症状、喘鳴、運動時の咳などを確認し、必要に応じて適切な診療科へご案内します。自己判断で胃薬や咳止めを長期間続けるのではなく、症状に合った評価を受けましょう。
自宅でできる対策と注意点
乾燥を避け、こまめに水分をとる
室内が乾燥すると分泌物が粘り、張りつき感が強くなることがあります。無理のない範囲で水分をとり、寝室などを適度な湿度に保ちます。たばこの煙や強い香料など、症状を悪化させる刺激が分かっている場合は避けてください。
鼻洗浄は正しい方法で行う
生理食塩水による鼻洗浄は、鼻内のアレルゲンや分泌物を洗い流す助けになることがあります。ただし、水道水をそのまま使う、食塩濃度や温度を誤る、強い圧力をかけると、粘膜や耳に負担をかける可能性があります。市販の専用製品や、衛生的に調製された洗浄液を使い、耳が痛いときや鼻が完全につまっているときは無理に行わないでください。
点鼻薬は向き・回数を守る
処方された点鼻薬は、鼻中隔側を避けて鼻の外側へ向け、指示された回数で使用します。効かないからと自己流で回数を増やしたり、症状が少し軽くなった時点で中断したりすると、十分な効果を評価できないことがあります。使用方法に不安がある場合は受診時に実物をお持ちください。
受診前に整理しておくとよいこと
後鼻漏は診察時に必ず再現されるとは限りません。次の情報をメモしておくと、原因を考える助けになります。
- いつ始まり、毎日あるか、良くなった時期があるか
- 右・左・両側のどこに感じるか
- 鼻水の色、粘り、量、におい。可能なら症状が強い時の写真
- 朝、夜、食後、横になった時、特定の季節などとの関係
- くしゃみ、鼻づまり、目のかゆみ、嗅覚低下、頭重感の有無
- 咳、喘鳴、胸やけ、声がれ、飲み込みにくさの有無
- これまで受けた治療と、良くなった症状・残った症状
- 使用中の内服薬、点鼻薬、吸入薬、市販薬
最も困っている症状を一つ決め、0〜10点などで記録すると、治療前後を比較しやすくなります。「後鼻漏」「咳」「鼻づまり」を別々に記録すると、鼻水は改善したのに咳だけ残っている、といった変化にも気づけます。
よくある質問
後鼻漏は何科を受診すればよいですか?
後鼻漏があれば慢性上咽頭炎ですか?
鼻水が見えなくても後鼻漏のことはありますか?
黄色や緑色の鼻水なら抗菌薬が必要ですか?
後鼻漏を飲み込んでも大丈夫ですか?
後鼻漏にはBスポット療法が効きますか?
後鼻漏による咳と喘息は見分けられますか?
子どもの後鼻漏は自然に治りますか?
参考情報
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「鼻の症状」
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 Web用語集「後鼻漏」
- 日本呼吸器学会「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025」
- 間島雄一ほか「慢性副鼻腔炎における後鼻漏の原因とその治療」
- 中下陽介ほか「アレルギー性鼻炎に伴う後鼻漏に対するロイコトリエン受容体拮抗薬の臨床的効果」
- 原渕保明「慢性上咽頭炎に対する上咽頭擦過療法」
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「鼻腔がん・副鼻腔がんの特徴」
- 「片側性副鼻腔疾患における自覚症状と画像所見の診断的有用性の検討」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたページです。個々の診断や治療は、年齢、症状、診察所見などによって異なります。症状が続く場合は自己判断せず医療機関へご相談ください。


