舌下免疫療法
(スギ・ダニ)
春先になるとアレルギーの症状で悩む方が多くなりますよね。特に親御さんにとっては、お子さんの症状を少しでも和らげたいと思うものです。最近では「舌下免疫療法」という根治療法が注目されています。この方法は、アレルゲンを少しずつ体に慣らせていくことで、症状を和らげる治療法です。その効果や費用、治療期間、お子さんへの適用、そして他の治療法との違いについて詳しく解説していきます。
治療開始前の動画視聴はこちら
舌下免疫療法とは?
少量のアレルゲンで体を慣らす仕組み
舌下免疫療法では、アレルギーの原因であるスギ花粉やダニのエキスから作られたお薬を、長期間(3〜5年)毎日、決められた量を舌の下に含んで服用することで、体をアレルゲンに徐々に慣らしていく治療です。
これは「免疫寛容」と呼ばれ、体本来の免疫システムを利用し、アレルゲンに対する過敏な反応を和らげることを目的としています。くしゃみや鼻水といった症状を一時的に抑える対症療法とは異なり、アレルギー疾患そのものの根本的な改善を目指せる点が大きな特徴です。体がアレルゲンに慣れていく過程では、アレルギー反応を引き起こすIgE抗体の産生が抑えられ、同時に、アレルギー反応を抑制する働きを持つ「制御性T細胞」と呼ばれる免疫細胞などが増加することが研究で明らかになっています。治療を行った8割以上の方で症状の軽減や改善が認められており、将来新たなアレルギーを獲得する確率や気管支喘息の発症率も低下させる可能性についても過去の研究で報告されております。アレルギー性鼻炎や、一部の気管支喘息の患者さんにとって、長期的なQOL(生活の質)向上につながる有効な治療選択肢として、近年注目されている治療法です。
舌下免疫療法のメリット
根本的な体質改善と自宅での手軽な治療
従来までも注射で同様の治療を行う「皮下免疫療法」はありましたが、注射による痛みや投与のために頻回の通院が必要でした。「舌下免疫療法」は以下のような特徴があり、多くの研究でこの治療法が生活の質の改善につながることが示されています。
期待される効果
・くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみといった症状の軽減が期待される。
・長期的にアレルギー症状を和らげる。
・症状が出にくい体質になる。
・QOL(生活の質)の向上が期待できる。
治療のメリット(皮下注射の免疫療法と比べて)
・治療薬を毎日自宅で服用できる手軽さ。
・注射による痛みがない。
・頻繁な通院の負担が軽減される。
・忙しい方でも治療を続けやすい。
舌下免疫療法のデメリットと注意点
長期治療と副作用、副反応のリスク
舌下免疫療法はアレルギー体質の改善を目指せる、安全で効果の高い治療法ですが、以下のようなデメリットや注意点もあります。
治療期間の長さ
・効果を実感し、体質の変化を維持するためには、一般的に3年以上の継続が必要です。
・毎日お薬を服用し、定期的に通院する必要があり、根気強く治療を続けることが必要です。
副作用、副反応の可能性
治療開始時や体調によっては、副作用が現れることがあります。主な副作用には以下があります。
・舌の下や口の中のかゆみ、腫れ
・唇の腫れ
・喉の違和感
・腹痛や吐き気などの消化器症状
・耳のかゆみ
・じんましん
これらの副作用の多くは軽く、治療を続けるうちに軽減される傾向があります。
ごくまれに、アナフィラキシーショックのような重いアレルギー反応が起こるリスクもあります(1億回の投与で1度の頻度と言われています)。
個人差のある治療効果
・8割以上の方は効果を実感できると言われていますが、すべての方に十分な効果が現れるわけではありません。
・効果を実感するまでに時間がかかる場合があります
治療を始める前に、これらのデメリットやリスクについて十分に理解し、医師の指導のもとで正しく治療を進めることが重要です。
治療の適応と禁忌
受けられる人・受けられない人
舌下免疫療法はすべての方がすぐに始められるわけではなく、治療を受けるにはいくつかの条件を満たす必要があります。
治療の対象となる方
・アレルギー検査結果にて、「スギ花粉」もしくは「ダニ」のアレルギー反応が陽性で、それに伴うアレルギー症状を認める方。
・5歳以上で、お薬を舌の裏に数分飲み込まずに保持できる方。
治療が受けられない場合
アレルギー検査でスギ花粉やダニに対するアレルギーが確認されても、以下のような場合には、舌下免疫療法が推奨されない、または受けられないことがあります。
・β阻害剤(高血圧薬など)や三環系抗うつ薬及びモノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI)を服用している方
・治療開始時に妊娠中(投与中に妊娠が生じた場合は、問題ないとされる)または授乳中の方
・不安定な重症喘息をお持ちの方
・全身的に重篤な疾患(悪性腫瘍、自己免疫疾患、免疫不全、重症心疾患、慢性感染症)をお持ちの方
・全身ステロイド薬や抗がん剤などの免疫を抑制する薬を服用している方
・発熱を伴う感冒などの急性感染症にかかっている方
最終判断
・舌下免疫療法を受けられるかどうかは、医師が患者さんの全身の状態や既往歴、現在の症状などを総合的に判断して決定します。まずは医師に相談し、詳しい検査と診察を受けることが大切です。
治療の流れ
初回診察から維持療法まで
1. 初回診察
・症状や鼻内所見から「スギ花粉」もしくは「ダニ」のアレルギーが疑わしい場合、アレルギーの原因を特定するためにアレルギー検査を行います。
・2年以内のものであれば他院で行ったアレルギー検査でも再検査の必要はございませんのでご持参ください。
・実施したアレルギー検査の結果に基づき、医師が舌下免疫療法の適応となるかを判断します。
アレルギー検査についてはこちら
2. 治療内容の説明
・治療の適応と判断された場合、治療内容や期待される効果、起こりうる副作用について、スタッフからご説明と20分程の説明ビデオをご視聴していただきます。
・事前にご自宅で説明ビデオをご視聴いただいた場合は、院内でのビデオ視聴を省略できます。以下のリンクよりご視聴ください。
スギ舌下免疫療法薬シダキュアの動画はこちら
ダニ舌下免疫療法薬ミティキュアの動画はこちら
3. 初回薬剤投与
・安全を確認するため、初回の薬剤投与は必ず医療機関内で医師の監督のもとで行われます。
・処方箋を持って薬局に行っていただき、お薬を受け取り後クリニックに戻ってきていただきます。
・スタッフと一緒にお薬を投与後30分間は院内で待機していただきます。
・最後に副作用がないか医師の診察を受けて終了です。
4. 自宅での維持療法
・初回の投与が無事に済んだら、医師の指示に従い、毎日欠かさず一定量の治療薬を舌の下に投与し、決められた時間(通常は数分間)保持した後に飲み込みます。
・最初の数週間は口の中がかゆくなったり、わずかな腫れを感じることがあるかもしれませんが、殆どの方はすぐに慣れて、不快感は徐々に軽減していきます。
5. 定期的な通院
・維持療法中も定期的に医師の診察を受けて経過を確認し、必要に応じて症状に対するお薬の処方を受けます。この定期的な通院が治療を成功させる上で非常に重要です。
・副作用がなく安定していれば、1〜2ヶ月ごとの通院となります。
・効果を持続させるために3〜5年続けて治療を行います。
治療期間と開始可能時期、受付時間について
治療期間
・3~5年治療を続けることで、治療中止後も7~8年効果が持続します。効果の現れ方には個人差がありますが、2,3ヶ月程から徐々に効果が現れてきます。
服用を開始して1~2年たっても効果が認められない場合は、服用を継続するかどうか医師と相談しましょう。
・治療開始後初回は2週間後に来院していただき、それ以降は安定していれば1ケ月に1回の通院となります。
開始可能時期
・「ダニ舌下免疫療法」は、随時開始が可能です(年末を除く)。
・「スギ舌下免疫療法」は、毎年5月-12月中旬までのスギ花粉が飛散していない時期で開始が可能です。
※現在スギのお薬の供給が需要に追いついておらず、周辺の薬局への入荷が未定となっております。適応が確認できた方で治療を希望される方は、待機リストに記入させていただき、順番が回ってき次第の開始となります。
※17歳までは、治療開始時の受診は保護者の同伴が必要です。
受付時間
月・火・水・金曜:午前11:00まで/午後17:00まで
土曜:午前11:30まで
※上記受付時間以降に受付されますと、後日での治療開始をお願いさせていただく場合もございます。あらかじめご了承ください。
※ 上記治療の流れのため初回は1〜1.5時間ほどお時間がかかります。初回に動画視聴とお薬の処方を行い、2回目受診時に院内での投与と30分間の待機に分割していただくことも可能です。
薬剤の種類と治療費用について
保険診療の範囲と自己負担額
薬剤の種類
スギ花粉症の治療薬は現在日本で使用できるものはシダキュア®︎のみとなります。
ダニアレルギーの治療薬はミティキュア®︎とアテシア®︎の2種類があります。アテシアはお薬に含まれるダニアレルゲンの量がミティキュアよりも約6倍も多いため、
副作用も多いですが、改善率も良いとされています。当院ではミティキュアから治療を開始して、半年〜1年経過しても症状や所見の改善が認められない方にアテシアへの切り替えをおすすめしております。


治療費用
毎月の治療にかかる費用は、主に薬剤費と診察費です。薬剤費は、使用する薬剤の種類(スギ花粉症用薬:シダキュア®︎、またはダニアレルギー用薬:ミティキュア®︎、アテシア®︎)や
用量によって異なりますが、3割負担の方で1ヶ月あたりの薬剤費は以下の通りです。薬剤費の他に再診料や、治療管理料など600円ほどかかります。
治療は長期にわたるため、これらの費用が継続的に発生することを念頭に置いておく必要があります。
お子さんの場合は、子ども医療費助成の適応となります。
| 原因アレルゲン(薬剤名) | 1ヶ月あたりの薬剤費目安(3割負担) |
|---|---|
| スギ(シダキュア®︎) | 約1,800円 |
| ダニ(ミティキュア®︎) | 約2,000円 |
| ダニ(アテシア®︎) | 約1,600円 |
よくあるご質問
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副作用が起きたらどうすればいいですか?
軽いかゆみや腫れ感は比較的よくある症状です。通常は数時間以内に改善し、毎日投与していくにつれて軽減していくことがほとんどですが、気になる場合は少量の水で口をすすぎ様子を見てください。もし症状が続く場合は医師に相談してください。意識が朦朧とする、呼吸がしにくいなどの症状を認める場合には直ちに薬の服用を中止し、緊急連絡先に連絡するか救急車を呼んでください。
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治療の効果はいつ頃から出ますか?
舌下免疫療法の効果を実感する時期は個人差がありますが、一般的には治療開始から数ヶ月から1年でアレルギー症状の軽減を感じる方が多いです。早い場合は数週間で変化を感じることもありますが、十分な効果を得るには継続が必要です。
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スギ花粉とダニ、両方のアレルギーがありますが同時に治療できますか?
舌下免疫療法はアレルゲンごとに異なる薬剤を使用するため、両方に対する治療が可能ですが、安全性を考慮し、同時に開始することは推奨されていません。まず一方の治療を始め、安定した段階で(1~3ヶ月後)もう一方を追加します。どちらから始めるかや期間は、患者の症状や体質に応じて医師が判断します。
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お薬を飲み忘れた場合はどうしたらいいですか?
舌下免疫療法では、毎日の薬剤服用が重要です。もしお薬を飲み忘れた場合は、次の日に通常通りの量を服用し、忘れた分をまとめて服用しないようにしましょう。維持期であれば、体調不良などで1週間程度は中止しても問題ございませんが、それ以上中止する場合は医師に相談しましょう。
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舌下免疫療法を受けている間に他のアレルギー薬を飲んでも良いですか?
基本的に抗アレルギー薬を併用することは問題ありません。特に舌下免疫療法の効果が現れるまでや症状が強い時期には、対症療法薬を併用することで症状を効果的にコントロールし、治療継続のモチベーションを維持できます。お薬の飲み合わせでご心配な場合は医師に相談してください。
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舌下免疫療法の治療効果を見るためにアレルギー検査の再検査は必要ですか?
必要ありません。舌下免疫療法を行なってもアレルギー検査の抗体値が下がるわけではなく、治療効果の判定には使用できません。
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妊娠中や授乳中でも治療できますか?
妊娠中や授乳中の新規の投与は安全性が保てないため推奨されていません。しかし、妊娠前より投与を行っている方に関しては妊娠中に継続をすることでリスクが高まることはないと言われており、症状が安定している場合は中止する必要はありません。妊娠が判明したら産婦人科の主治医に相談し、治療を続けるか確認することが重要です。ご心配な方は医師にご相談ください。
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治療を中断したい場合はどうすればいいですか?
1,2年治療を行なっても効果を感じられなかったり、副作用が気になるなど治療を中断する場合は、自己中断せずに必ず医師に相談してください。
舌下免疫療法で長年のアレルギーの悩みに根本からアプローチ
舌下免疫療法は3〜5年の継続が必要で、根気がいる治療ではありますが、通常の症状を一時的に緩和する「対症療法」ではなく、体を慣らしてアレルギー反応を抑える「根治療法」です。5歳以上のお子さんから対象となり、約7~8割の患者で症状の軽減が報告されている安全性の高い治療ですので、よく鼻をすすっている、鼻がつまっている、口呼吸になっているという方は、一度耳鼻科での診察をおすすめいたします。当院では初回の診察から安全に治療を始められるよう丁寧にサポートしています。ご興味のある方はお気軽にご相談ください。
お役立ちリンク
⚫︎鳥居薬品のアレルゲン免疫療法専門サイト

⚫︎塩野義製薬のダニによるアレルギー性鼻炎に関する情報サイト
https://www.dani-allergy.jp
記事執筆者Writer
仲宿つくも耳鼻咽喉科・矯正歯科
院長 渡邉 格
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医
日本気管食道科学会 専門医
日本音声言語医学会 音声言語認定医
日本嚥下医学会 嚥下相談医
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器相談医
仲宿つくも耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科 / 小児耳鼻咽喉科 / アレルギー科
〒173-0005 東京都板橋区仲宿63-5メディカルスクエア板橋区役所前3階
電話番号:03-5944-1471


