慢性上咽頭炎は、鼻の奥とのどの境目にある上咽頭の炎症が長く続く状態です。鼻の奥の違和感、後鼻漏感、咳払いなどを伴うことがありますが、症状だけでは診断できません。鼻咽腔内視鏡で上咽頭を観察し、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、咽喉頭逆流症など、似た症状を起こす病気がないか確認することが重要です。

この記事の結論
慢性上咽頭炎の診断では、症状の期間、鼻・副鼻腔やのどに別の病気がないか、内視鏡で上咽頭に炎症所見があるかを確認します。Bスポット療法(上咽頭擦過療法)は、慢性上咽頭炎と判断され適応がある場合の選択肢です。希望だけで一律に行う処置ではなく、痛み・出血や効果の個人差について説明を受けてから検討します。
慢性上咽頭炎とは?
上咽頭は、鼻から吸い込んだ空気が最初に通る、鼻の奥とのどの境目にある部分です。かぜなどで一時的に炎症を起こすことがありますが、炎症が長引いた状態を慢性上咽頭炎と呼びます。
上咽頭は普段の口の中の診察だけでは見えない場所です。そのため「のどが変なのに、口を開けて見ても異常がないと言われた」という場合でも、鼻からの内視鏡で確認すると炎症が見つかることがあります。
上咽頭はどこにある?
のどは上から上咽頭・中咽頭・下咽頭に分けられます。口を大きく開けたときに見える扁桃やのどの壁は主に中咽頭で、上咽頭はそのさらに上、鼻の穴の一番奥にあります。耳と鼻をつなぐ耳管の入口も近くにあるため、上咽頭周辺の炎症が耳の違和感や詰まり感と同時にみられることがあります。
急性上咽頭炎との違い
かぜの初期に鼻の奥がヒリヒリする、のどの上部が痛むといった急性の上咽頭炎はよく遭遇する症状で、多くの場合ウイルス感染などに伴う一時的なものです。
症状だけでは慢性上咽頭炎と診断できません
慢性上咽頭炎では、次のような鼻・のどの症状がみられることがあります。しかし、いずれも慢性上咽頭炎だけに特有の症状ではありません。症状の場所や期間に加え、内視鏡所見と他疾患の除外を組み合わせて判断します。
- 鼻水がのどに流れる感じ(後鼻漏)が続く
- 鼻の奥やのどの上部に、乾燥・張りつき・異物感がある
- 痰がからむ、咳払いが増えた、長引く咳がある
- 鼻声、声が出しにくい感じが続く
- かぜの後から症状だけがなかなか取れない
1か月近く続く、生活や睡眠に影響する、繰り返す場合は耳鼻咽喉科での相談をおすすめします。血の混じった鼻水や痰が続く、片側だけの症状、飲み込みにくさ、首のしこり、体重減少などがある場合は、早めの評価が必要です。
後鼻漏があるだけでは慢性上咽頭炎ではありません
後鼻漏はアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などでも起こります。治療は原因ごとに異なるため、鼻水の性状、左右差、季節性、嗅覚低下などを確認し、必要に応じて鼻咽腔内視鏡や画像検査、アレルギー検査で原因を調べます。後鼻漏の原因と検査については、公開済みの後鼻漏コラムで詳しく解説しています。
| 症状のまとまり | 具体的な訴え |
|---|---|
| 鼻の奥 | 張りつき、乾燥感、ヒリヒリ感、鼻声、においの違和感 |
| のど | 後鼻漏、痰がらみ、咳払い、異物感、軽い痛み |
| 耳周辺 | 耳の詰まり感、飲み込んだときの違和感 |
| 全身的な訴え | 頭重感や疲労感などを伴うことがあるが、他の原因も幅広く検討が必要 |
慢性化に関係する要因
慢性上咽頭炎がなぜ続くのかは、すべてが明確になっているわけではありません。かぜなどの感染後に炎症が残るほか、鼻の病気、乾燥や刺激、口呼吸など、複数の要因が重なっていると考えられます。
感染後に炎症が残る
上咽頭は吸い込んだ空気が最初に触れる場所の一つで、ウイルスや細菌への免疫反応が起こりやすい部位です。発熱や強いのどの痛みが治った後も、上咽頭の違和感や後鼻漏感だけが長く残ることがあります。
アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎
鼻水や粘りのある分泌物が上咽頭へ流れると、粘膜への刺激が続きます。アレルギー性鼻炎では鼻づまりから口呼吸になりやすく、乾燥も加わります。上咽頭だけを治療しても鼻炎や副鼻腔炎が残れば、症状が十分に改善しない可能性があります。
乾燥・喫煙・口呼吸などの刺激
乾いた空気、たばこの煙、強い刺激物、慢性的な口呼吸などは、鼻・のどの粘膜に負担をかけます。職場や寝室の環境、マスク着用の有無、睡眠中の口呼吸も確認します。
似た症状を起こす病気
「後鼻漏」「のどの違和感」「痰」「咳」は、慢性上咽頭炎だけに特有の症状ではありません。インターネットで慢性上咽頭炎を検索されて来院された方でも、診察の結果、別の病気が見つかることがあります。
| 考えられる病気・状態 | 手がかり |
|---|---|
| アレルギー性鼻炎 | 透明な鼻水、くしゃみ、鼻や目のかゆみ、季節や寝具との関係 |
| 慢性副鼻腔炎 | 粘りのある色のついた鼻水、嗅覚低下、頬や頭の重さ、口臭 |
| 咽喉頭逆流症 | 食後や就寝時の違和感、胸やけ、朝の声がれ、咳払い |
| 気管支喘息・咳喘息 | 夜間や明け方の咳、運動時の咳、喘鳴、息苦しさ |
| 乾燥・口呼吸 | 起床時に強い乾燥感、鼻づまり、いびき |
| 腫瘍など | 片側だけの症状、繰り返す出血、首のしこり、進行する飲み込みにくさ |
診察・内視鏡と診断の考え方
慢性上咽頭炎に似た症状は、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、咽喉頭逆流症、ぜんそく、薬の副作用などでも起こります。「Bスポット療法を受けたい」と決めて受診するより、まず原因を確認することが大切です。
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 問診 | いつから、どこに、どのような症状があるか。悪化する時間・季節・きっかけ |
| 鼻・のどの診察 | 鼻水、鼻粘膜、口腔・咽頭の炎症など |
| 鼻咽腔内視鏡 | 上咽頭の腫れ、発赤、分泌物、出血しやすさなど |
| 必要に応じた検査 | アレルギー検査、画像検査、他科への紹介など |
鼻咽腔内視鏡で分かること
細い内視鏡を鼻から入れ、鼻腔、副鼻腔からの分泌物、上咽頭、耳管の入口などを観察します。上咽頭では粘膜の腫れや発赤、分泌物、かさぶた、触れた際の出血などを確認します。処置前後で同じ部位を観察すると、炎症所見の変化を比較できます。
ただし、内視鏡所見だけで多様な全身症状の原因がすべて上咽頭にあると判断することはできません。症状の種類によっては血液検査、画像検査、呼吸器内科・消化器内科・神経内科など他科の評価をご案内します。
2025年に提案された診断基準
日本口腔・咽頭科学会の検討委員会による2025年の総説では、慢性上咽頭炎の診断基準として、次の3項目をすべて認めることが提案されています。実際の診療では、症状や既往歴を含めて医師が総合的に判断します。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 症状と期間 | 慢性上咽頭炎を疑う症状が1か月以上続き、薬物療法などで改善しない |
| 他疾患の除外 | 鼻・副鼻腔、中・下咽頭、喉頭に症状を説明する器質的疾患がない |
| 上咽頭の所見 | 内視鏡で発赤・腫脹・上咽頭由来の粘液付着などを認め、擦過時に出血を認める |
Bスポット療法とは?
Bスポット療法は、上咽頭擦過療法(EAT:Epipharyngeal Abrasive Therapy)とも呼ばれます。塩化亜鉛の溶液を含ませた綿棒などを鼻または口から上咽頭に入れ、炎症部分に塗布・擦過する処置です。
当院では、慢性上咽頭炎と診断され、適応がある方に行っています。初診時などに内視鏡で上咽頭を確認し、処置の方法、期待できる変化、痛みや出血について説明します。
鼻から行う方法と口から行う方法
鼻から細い綿棒を入れて上咽頭を擦過する経鼻法と、口から曲がった綿棒を入れて行う経口法があります。炎症の場所や鼻の通り、嘔吐反射の強さなどを見ながら方法を選びます。当院では必要に応じて内視鏡で部位を確認しながら処置します。
どのような作用が考えられている?
塩化亜鉛による粘膜の収れん作用、炎症部位の分泌物や付着物を物理的に除く作用などが考えられています。一方、作用機序や、鼻・のど以外の幅広い症状に対する効果は研究が続いている段階です。すべての不調を上咽頭炎で説明したり、万能な治療として案内したりしないことが重要です。
保険診療で行う処置です
診察で慢性上咽頭炎と判断され、医学的に適応がある場合に保険診療として行います。診察料、処置料、内視鏡検査などがかかる場合があります。費用は保険負担割合や検査内容で異なるため、最新の案内をご確認ください。
当院での治療の進め方
慢性上咽頭炎は、1回の処置で完了する治療ではありません。当院では、通院負担も考慮しながら、まず一定回数の処置を行い、症状と診察所見の両方で反応を評価します。
- 初診:症状の経過を確認し、鼻・のどと上咽頭を診察。必要に応じて内視鏡検査
- 治療開始:適応があれば処置方法と痛み・出血を説明し、Bスポット療法を実施
- 初期評価:週1〜2回のペースで、まず5回を目安に処置
- 効果判定:後鼻漏、違和感、咳などの自覚症状と内視鏡所見を確認
- 方針相談:改善があれば継続や間隔調整、変化が乏しければ診断・治療を再検討
「治療直後だけ楽になる」「痛みは減ったが症状は変わらない」「後鼻漏は軽くなったが咳が残る」など、反応はさまざまです。症状ごとに0〜10点で記録すると、感覚的な変化を比較しやすくなります。
炎症が改善すると処置時の痛みや出血が減る傾向はありますが、それだけで治癒と判断することはできません。治療目標は、日常生活を妨げる症状がどの程度改善したかで相談します。
痛み・出血など治療後の注意点
炎症がある部分を擦過するため、処置中に痛みを感じたり、処置後に鼻水や痰へ血が混じったりすることがあります。ヒリヒリ感や、治療前より一時的に症状が強くなったように感じることもあります。
処置前に知っておきたいこと
- 痛みの感じ方には個人差がある
- 炎症が強いと出血しやすいが、多くは自然に止まる
- のどの反射が強い場合は、鼻からの処置のみを検討することがある
- 1回で症状がなくなる治療ではなく、複数回行うことがある
- すべての症状に効くわけではなく、改善の程度には個人差がある
慢性上咽頭炎や上咽頭擦過療法は研究が続いている領域です。鼻・のど以外の多様な症状への効果については、確立していない点もあります。当院では、診察所見と症状の経過を確認しながら、治療を続けるかを相談します。
処置当日の過ごし方
少量の出血やヒリヒリ感は起こり得ます。処置直後に強く鼻をかむ、のどを繰り返し刺激するなどは避け、医師から個別の指示があれば従ってください。食事や運動の制限が必要かは処置方法や症状によって異なります。市販の鎮痛薬を追加したい場合も、ほかの薬との併用を含めて確認しましょう。
併行する治療とセルフケア
Bスポット療法だけでなく、上咽頭への刺激を減らし、背景にある鼻の病気を治療することも重要です。
鼻炎・副鼻腔炎を適切に治療する
鼻水が上咽頭へ流れている所見も認める場合は、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の治療も並行します。処方された点鼻薬は、自己流で回数を増減せず、正しい向きと回数で使用してください。
鼻うがいは正しい方法で
生理食塩水による鼻洗浄で、鼻や上咽頭付近の分泌物を洗い流せることがあります。ただし、水道水をそのまま使う、濃度や温度を誤る、強い圧力をかけると、鼻粘膜や耳に負担をかける可能性があります。市販の専用製品などを用い、耳鼻咽喉科で方法をご確認ください。
乾燥と口呼吸への対策
室内が乾燥する時期は適度な加湿と水分補給を行います。鼻づまりがある方が自己判断で口をテープで閉じると呼吸しづらくなることがあるため、まず鼻呼吸を妨げる原因を確認してください。
受診前に整理したいこと
症状が長く続くほど、いつから・何をきっかけに始まったかが分かりにくくなります。次の点をメモしておくと診察がスムーズです。
- 最も困っている症状と、その場所
- 症状が始まった時期。かぜ・新型コロナなど感染症との前後関係
- 朝・夜・食後・季節など、悪化するタイミング
- 鼻水の色や粘り、におい、左右差、出血の有無
- 胸やけ、ぜんそく、アレルギー、いびき・口呼吸の有無
- これまで受けた検査・治療と、その効果
- 現在使用している内服薬、点鼻薬、吸入薬、サプリメント
「Bスポット療法を希望」と予約時に伝えていただいても、初回は適応を判断する診察が中心になる場合があります。処置後の予定や通院頻度も含め、無理なく継続できるかご相談ください。
よくある質問
後鼻漏があれば、慢性上咽頭炎ですか?
Bスポット療法は痛いですか?
何回受ければ治りますか?
Bスポット療法だけ受けることはできますか?
内視鏡検査は毎回必要ですか?
鼻からの処置と口からの処置で効果は違いますか?
新型コロナ後の倦怠感にも効きますか?
一度改善したら再発しませんか?
参考情報
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報「慢性上咽頭炎に対する上咽頭擦過療法」(2025)
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 Web用語集「上咽頭炎/上咽頭擦過療法」
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 Web用語集「内視鏡下上咽頭擦過療法」
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「鼻の症状」
- 当院「Bスポット療法」
- 当院コラム「後鼻漏の原因と検査」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたデモです。症状が続く場合は、自己判断せず医療機関へご相談ください。


