「音は聞こえるのに、言葉として聞き取れない」「静かな場所なら会話できるのに、飲食店や会議では話についていけない」。通常の聴力検査で異常がなくても、こうした困りごとが続く場合があります。聞き取り困難症(LiD)・聴覚情報処理障害(APD)を含め、耳の病気や生活場面を確認し、必要な検査と支援を考えます。
聞き取り困難症(LiD)・聴覚情報処理障害(APD)とは
聴力検査では小さな音を聞き取れても、日常生活では言葉を聞き分けたり、聞いた内容を理解したりすることに困難が生じる場合があります。特に、周囲が騒がしい、複数の人が同時に話す、話す速度が速いといった状況で、困りごとが目立ちます。
APDは「聴覚情報処理障害」の略称です。聞き取りには聴覚だけでなく、注意、記憶、言語理解なども関わるため、近年は困りごとを幅広く捉える「聞き取り困難症(LiD)」という言葉も使われています。単に集中力や努力が足りないと決めつけず、どのような場面で困るかを整理することが大切です。
一方で、「聞き返しが多い」だけでAPDと診断できるわけではありません。耳垢、中耳炎、難聴などの耳の病気、言語や発達の特性、疲労や心理的負担など、さまざまな要因を確認します。
こんな聞き取りの困りごとはありませんか?
- 飲食店や教室など、周囲が騒がしいと会話が分からなくなる
- 複数の人が話す会議やグループ活動についていきにくい
- 聞き返しても、音は届くのに言葉がはっきりしない
- 電話や放送、早口の説明が聞き取りにくい
- 口頭で続けて指示されると、一部が抜けてしまう
- 聞き取ることに集中し続けて、強く疲れる
これらは診断用のチェックリストではありません。同じ症状でも原因は異なります。静かな場所と騒がしい場所、対面と電話など、得意・不得意な状況の違いが診察の手がかりになります。
まずは難聴などの原因がないか、聴力検査で確認します
耳の診察と基本的な聴力評価
耳の中や鼓膜を診察し、耳垢や中耳炎など、音が伝わりにくくなる原因を確認します。純音聴力検査では、低い音から高い音まで、左右それぞれで聞こえる小ささを測ります。状態に応じて、言葉の聞き取りを調べる語音聴力検査や、中耳の状態を調べる検査なども検討します。
生活場面と聞き取りの特徴を整理
いつから困っているか、学校や仕事でどんな支障があるか、静かな場所ではどうかを確認します。必要に応じて質問紙も活用します。検査室の結果と日常の聞き取りは、環境や課題が違うため一致しない場合があります。
専門的な評価が必要な場合
専門施設では、雑音の中の言葉、両耳へ別々に提示された言葉、速い音声などを用いて聞き取りを評価することがあります。注意・記憶・言語などの評価が必要になる場合もあります。診断は一つの数値だけで決めず、症状と各検査の結果を総合して行います。
専門的な検査や支援の相談が必要な場合は、対応する医療機関への紹介を含めて受診先を検討します。検査内容や対象年齢は施設によって異なります。
治療・支援は、聞き取りやすい環境づくりから
中耳炎や難聴などが見つかれば、その原因に合わせた治療を行います。LiD・APDの支援では、聞き取りにくい場面を減らし、音声だけに頼らず情報を受け取れるように工夫します。すべての人に共通する一つの薬や訓練で治る、と説明できるものではありません。
周囲の音を減らす
会話のときはテレビや音楽を止める、静かな席へ移動する、話し手に近い位置に座るといった方法が役立ちます。会議では一人ずつ話すルールを設け、発言者が分かるようにします。
短く区切り、文字でも伝える
長い説明は区切って伝え、重要事項をメモやチャットに残します。聞き返すときは「もう一度全部」ではなく、「集合時間だけ確認したい」など、分からなかった部分を具体的に伝えると確認しやすくなります。相手の顔が見える位置で話すことも助けになります。
補助機器や訓練は個別に検討
話し手の声を届けるマイクシステム、字幕、文字起こしなどが役立つ場合があります。聴覚トレーニングや補聴機器については、目的と効果を確認しながら専門家と検討します。高価な機器の購入を急がず、生活場面で役立つか試すことが大切です。
子どもの聞き返しは「聞いていない」と決めつけない
学校健診が正常でも、教室での説明が聞き取りにくいことがあります。まずは滲出性中耳炎などの耳の病気や難聴を確認し、年齢に応じて評価します。小さなお子さんでは発達段階や検査への理解も結果に影響するため、成人と同じ検査だけで判断しません。
学校では先生に近く雑音の少ない席、板書や図による説明、一度に一つずつの指示、理解できたかの個別確認などを相談できます。家庭でも、別室から声をかけるより、近くで顔を見て短く伝える工夫が役立ちます。
学習や言葉の発達に心配がある場合は、小児科、言語聴覚士、学校などと連携します。診断名の確定を待たずに、具体的な困りごとに対する配慮を始めることができます。
受診・相談の目安
聞き返しが増え、学校や仕事、対人関係に支障がある場合は、耳鼻咽喉科へご相談ください。以前の聴力検査があれば結果を持参し、「騒がしい店で注文を聞き取れない」など困る場面を2~3例メモしておくと役立ちます。
突然片耳が聞こえにくくなった、急な耳鳴りやめまいを伴う場合は、APDと思い込まず早めに受診してください。突発性難聴など、早期の評価が重要な病気が隠れている可能性があります。ろれつが回らない、手足に力が入らないなどの症状を伴う場合は救急対応が必要です。
仲宿つくも耳鼻咽喉科・矯正歯科では、聞こえに関するご相談を受け付けています。耳の診察と必要な聴力評価を行い、専門的な評価が必要な場合は紹介を含めてご案内します。
よくある質問
聴力検査が正常でも受診してよいですか?
はい。通常の検査で分かる音の聞こえ方と、日常生活の会話の聞き取りには違いがあります。生活に支障があれば、困る場面も含めてご相談ください。
大人になってから気づくことはありますか?
あります。就職や配置転換などで、電話・会議・騒音下の会話が増え、以前からの困難が目立つ場合があります。急に始まった症状では、別の病気も確認します。
発達障害と同じものですか?
同じ意味ではありません。注意や言語の特性などが聞き取りに影響する場合はありますが、聞き取りの困難だけで発達障害と判断することはできません。
補聴器を買えば改善しますか?
音を大きくするだけでは解決しない場合があります。難聴の有無、困る環境、機器の効果を確認して判断します。まずは診察と評価を受けましょう。


